進むドローン規制、一律規制で「新大陸」上陸を遅らせるな

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今後のセキュリティを考えるには、まず現在起きているテクノロジーによる革新の本質をつかむ必要がある。我々がどこに向かうかを分からなくては、セキュリティの議論も成り立たない。そういう観点で連載第1回は無人飛行機「」の現状と行く末について論じてみたい。

ドローンは今年4月に起こった首相官邸への墜落事件によって瞬く間に名前が知れ渡った(関連記事)。その後も、長野・善光寺の法要中にドローンを墜落させ注意を受けた15歳の少年が東京・浅草の三社祭でも飛行をほのめかせて逮捕される(その後、保護観察処分)など、連日のようにドローンに関する話題が持ち上がった。

すっかり「厄介なもの」とのイメージが定着したドローンに対し、国は飛行を法規制する検討を急ピッチで進めている。ドローンへの規制はどうあるべきか、私たちはこの最先端機器にどう向き合わなければならないか、騒動が一段落した今、考えてみたい。

ホビー用と商用で大きな差

総務省は6月29日、ドローンで撮影した映像をネット上に公開する際のガイドライン案を公表した関連記事)。空中から撮った映像がプライバシー侵害を引き起こさないよう、「カメラを住宅に向けない」「高層マンションには水平にカメラを向けない」「人の顔やナンバープレートなどにはぼかしを入れる」といった内容となっている。

ドローンを巡っては、自民党なども首相官邸や国会など重要施設の周辺300メートルを飛行禁止区域とする法案を今国会に提出。7月9日には国内初のドローン規制法案が衆議院内閣委員会で可決された(関連記事)。これとは別に、政府も空港周辺や住宅密集地などでの飛行について、安全確保体制をとった事業者に限定することなどを検討中だという。

こうした規制の動きを見ていて懸念するのは、ドローンが十把ひとからげで議論されている点だ。ドローンといっても大きさも種類も様々で、一律に規制対象とするのは無理がある。ドローンは大きく「ホビー用」と「商用」があり、これらを分けて議論する必要があるのではないか。

写真1●仏パロットの「Bebop
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小型のホビー用は安いものでは数千円から購入できる(写真1)。遠隔操作して空撮や飛行そのものを趣味として楽しむためのもので、位置付けとしてはラジコンのヘリコプターに近い。冒頭の15歳の少年が墜落させたのもこのホビー用だ。

機体重量は数十グラムから数百グラム程度で、操縦を誤って墜落させたとしても人や物に深刻な被害を及ぼすことは少ないと思われる。機体が軽いため搭載できる物も非常に限られる。そのため、テロなどの重大犯罪に悪用される危険性は極めて低いだろう。

写真2●中国DJIの「Phantom 2 Vision+」。首相官邸に墜落したものと同機種(写真はDJI提供)
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一方、商用ドローンはホビー用に比べてはるかに機体やプロペラが大きく、機体重量も数キログラム以上と大型だ(写真2)。必然的に墜落したときの衝撃や被害も大きくなるため、安全に飛行させるには現状では一定の技量が必要になる。

首相官邸に墜落した機種もこの商用ドローンだ。飛行性能が高く、価格も数十万円以上となる商用ドローンは、自律飛行できる点が大きな特徴で、飛行中に電波が途切れても事前に設定した目的地に自力でたどり着くなどの機能を備えている。

機体にはGPS(全地球測位システム)やカメラ、地磁気センサー、超音波センサー、姿勢制御装置などが搭載され、ドローン自身が飛んでいる位置や方向を確認したり、周囲の状況を判断したりする。商用ドローンはすでに噴火災害や土砂災害における被災地確認に使われている。それだけでなく、橋梁やトンネルの点検、配送、測量、警備、農作物の生育状況確認など、幅広い分野で実用化に向けた研究開発が進んでいる(関連記事)。

ただ、ホビー用と商用については、必ずしも明確に定義されているわけではない。ではどこで線引きするか。筆者は規制を検討する際には「最大積載量」を基準にして「軍事転用可能なもの」と「そうでないもの」を分ける、あるいは「人に危害を及ぼすかどうか」で線引きするのも一案ではないかと考えている。

ドローンの「鳥の眼」活用を鈍らせるな

技術がまだ発展途上――。これがドローンについてよく言われる課題だ。トラブルのほとんどは操作ミスによるものだと思われるが、無人飛行機という本来のコンセプトに照らしてみれば、操作ミスで落ちるようでは落第点だ。人的ミスを技術によりカバーできるようになって初めて使えるレベルに達したと言えるだろう。ドローンは従来のラジコンヘリとは似て非なるものなのである。

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ただし技術面の進歩に関してはそれほど心配してはいない。例えば自動車業界などが究極的には車の運転を自動化することを目指し、運転者の腕や経験、勘だけに頼らず安全を実現しようと機能を向上させていることと同じように、ドローンも公共性の高さから姿勢制御技術や衝突回避技術などが今後ますます進化すると見られる。

筆者が懸念するのは技術ではない。日本でドローン活用が減速してしまうことだ。一般的に日本ではリスクのあるものに対してまずは一律で利用や販売を規制しがちだ。一方、世界の潮流は「走りながら」有効利用の方法とリスク低減策を考える。安全が確保できるまで待っていては、日本だけが世界から取り残されることになる。

新たなテクノロジーの登場は、それまで一部の人に限られていたことを一般の人でも実現できるよう社会を変革してきた。フェイスブックやツイッターなどのソーシャルメディアは「情報の発信者」という立場に誰でもなれるようにした。そしてドローンは、誰もが「鳥の目」を持ち、空から地上を見下ろせるようにした。

「鳥の目」の獲得は、空間ビジネスという「新大陸」の発見である。それゆえ巨大マーケットへの発展を見越して世界中の産業界が熱い視線を送っている(関連記事)。ドローンに関係する人それぞれの夢と希望、思惑が後押しとなり、技術の進化は一層加速していくだろう。

ドローンは新ビジネスの創出だけでなく、労力とコストを大幅に抑えながら作業効率を向上させるという、相反したメリットの追及を可能にするものでもある。高齢化や人口減少、労働力不足といった喫緊の課題を解決するためにも新たなテクノロジーの活用は避けて通れない。

ドローンのような最先端機器の登場に際して考えるべきは、いかに規制するかではなく、私たちがいかにそれに順応し、最大限の効果を引き出すかである。こうした視点を踏まえた議論でなければ日本社会の未来はない。ドローン規制議論を契機に、これまで日本社会が新しいテクノロジーに直面したときの向き合い方を政府だけでなく一人一人が振り返りつつ、真の社会問題解決のために役立てる方向で議論を進めたいものだ。

ドローン後の社会

産業界からの後押しと社会的要請から、筆者は、社会環境は早晩、ドローンの飛行を前提とするように変わると見ている。まずドローンの機体や持ち主を識別し、飛行禁止エリアに侵入しないようにしたり、複数機がお互いに衝突しないようにさせたりするための管制システムなどが整備されるだろう。侵入禁止や衝突回避では、ドローンが認識できる「標識」を整備することも欠かせない。例えば、ドローンに侵入禁止を伝えるための装置や、盗撮防止のため窓ガラスに張る撮影禁止のマークなど、様々な対策が考えられる。

ドローンは操縦者の意識と技術向上を図るだけではなく、これら高性能カメラなど各種センターを駆使し空間や状況を認識しルールを守り、安全に飛行できるような技術開発と標準化を図っていく。一方、こうした機能が整備されていないものは「無車検車」と同様、飛行させないようにする。ドローンの幅広い利用を促進するため、将来的にこのような方向へ環境が整備されていくだろう。

そのためには、技術的にまだまだ発展途上のドローンを安全に飛行させるための操作技量を養うためや、ドローンそのものの安全性向上技術などを開発するためにも「練習場」の整備が欠かせない。なぜならば「新大陸」で活躍するのは大企業だけではなく個人やベンチャーの力が欠かせないからである。少なくとも所持しているだけで不審者と見られたり、安全に配慮して飛行させても通報されたりする危険性を排除する必要がある。

練習場の問題は2015年6月1日に発足したセキュアドローン協議会でも解決すべき課題として議論されていた。都内でも廃校や使用していない各種スポーツ施設など、練習場として利用可能な場所はあるはずである。関係者の方々はぜひ検討いただきたい。

 

 

 

30年に千億円市場 業務用ドローン、普及のシナリオ

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2030年には1000億円――。日経BPクリーンテック研究所の予測では、国内における業務用の無人航空機「」の市場規模は、ドローンの高機能化とともに指数関数的に拡大する(図1)。

図1 ドローン市場の推移(出所:日経BPクリーンテック研究所)
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図1 ドローン市場の推移(出所:日経BPクリーンテック研究所)

これは、農林水産業、行政、巡視・点検、計測・観測、撮影、輸送・物流、危険区域作業、アトラクションなど業務用途で使用されるドローンの普及シナリオから、業務用に販売されるドローン本体とドローンを使用したサービス市場を合計したものである。

同研究所が2015年6月30日に発行した『世界ドローン総覧』で明らかにした。世界の173機種のスペックからロードマップを作成し、50以上の応用分野を分析し、シナリオを描いて市場規模を算出した。

この分析には、軍事用とホビー用途は含まれていない。マルチローター(回転翼)ヘリコプターを想定しており、固定翼や無人ヘリコプターは対象から外した。サービス市場は、ドローンの稼働日数とサービス単価から算出した。行政サービスのように無償で提供される場合は、同サービスを民間企業が実施した場合を想定して料金設定した。同様に自社が業務効率で導入した場合も、外部に委託した場合を想定してサービス市場に加えた。

■ドローン普及のシナリオ

2015年の業務用ドローン市場は約30億円だが、2020年には約200億円、2025年には約440億円と拡大し、2030年には1000億円を超える。そこへ至るシナリオを、以下のように描いた。想定されるアプリケーションは50以上になる()。

表 ドローンの用途。その他にホビーを挙げたが、市場ポテンシャルの算出ではホビー用途は除いた(出所:日経BPクリーンテック研究所)
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表 ドローンの用途。その他にホビーを挙げたが、市場ポテンシャルの算出ではホビー用途は除いた(出所:日経BPクリーンテック研究所)

首相官邸にドローンが墜落した事件により、その危険性がクローズアップされ、足元では導入を躊躇(ちゅうちょ)する企業が多い。この段階ではドローンを利用するとしても、専門に取り扱う企業に依頼し、自社では操作せずリスクを取らないケースがほとんどだ。サービス提供企業は限られた専門企業に集中する。

用途の広がりは限定的で、試験導入は多いものの、本格的に導入する用途は少ない。空撮やメガソーラーの点検、土砂災害や土木工事の測量などが主な用途である(図2)。

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図2 ドローンの利用シーンの展開(出所:日経BPクリーンテック研究所)
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図2 ドローンの利用シーンの展開(出所:日経BPクリーンテック研究所)

2020年ころには法制度が整備され、保険サービスも充実することで、リスクが軽減される。一方でドローンの性能も向上し、操作性は一段と容易になる。一般の事業者がドローンを使ってサービスを提供するようになり、用途も広がりを見せる。防犯や農薬散布でも一般に使用され、メガソーラーから普及した点検業務は橋梁や鉄塔などに広がる。災害など緊急時の物資輸送から、孤島や買い物難民への宅配など定期的な運用へと移行する。

2025年を過ぎると自律飛行がさらに高度化し、ドローンが搭載するカメラが周りを撮影して周囲の状況を把握しながら飛行する。サービスを提供する企業だけでなく、一般企業が自社の業務効率化のためにドローンを導入するケースが増える。点検や測量はドローンの導入が一般的になり、簡単な作業であればドローンを使って遠隔操作で作業することが試験的に行われる。

■30年に業務用の年間販売台数が8200台に

業務用ドローンの販売台数は、2015年は約500台だが、2020年に約1500台、2025年に約3400台、2030年に約8200台に達する(図3)。その間に性能は急速に向上する。2015年から2020年のドローンの平均的な性能は、飛行スピードが時速数十km、ペイロードは3k~5kg、航続時間は15~20分。それが10年後の2025年以降は、飛行スピードが時速100~200km、ペイロードが20kg、航続時間は1~2時間に延びる。

図3 事業者向け分野別ドローン販売台数の推移(出所:日経BPクリーンテック研究所)
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図3 事業者向け分野別ドローン販売台数の推移(出所:日経BPクリーンテック研究所)

インフラも整い、充電ステーションやバッテリー自動交換システムが普及し、1台のドローンの活動範囲は飛躍的に拡大する。

現在のドローンは、まだ黎明期の段階にある。それは1980年代のパソコン市場に例えられる。まだ「Windows」が普及しておらず、インターネットもない時代だ。その後、パソコン市場は、パソコンの機能拡大とともに爆発的に成長したが、ドローンも同様の道をたどると予測される

 

中国製ドローンが世界で“爆売れ” 低価格で高い操作性も…法規制の動き拡大

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空の産業革命をもたらすとも期待される小型無人機「」。中国広東省で製造を手掛けるベンチャー企業が世界の市場を席巻、存在感を示している。武器は使い勝手の良さと手ごろな価格だ。活用が進む一方でトラブルへの懸念から規制の動きも広がる。

ベンチャーの開発技術評価

スマートフォン製造などハイテク産業が集積する広東省深セン。高層ビルが立ち並ぶビジネス街に、世界の民生用小型ドローン市場で50%超のシェアを握るとされる「深セン市大疆創新科技(DJI)」の本社がある。

「あなたでも、すぐ飛ばせます。操作性の良さには定評があります」。ブーンというドローン独特の低い飛行音が響く中、DJIの広報担当者が業界をリードしている自負をのぞかせた。4月に起きたネパール大地震の救助活動に投入され、米国の消防当局からも多くの引き合いがある。東京都内の首相官邸屋上で4月に見つかったドローンの製造会社でもある。

 

DJIは、香港科技大の大学院で無線操縦ヘリの制御技術を研究していた汪滔氏が2006年、仲間数人と設立。自社開発した無線操縦ヘリや複数の回転翼を持つドローンの販売から始まった。

転機は、デザイン性に優れたドローンを679ドル(約8万4000円)で売り出した13年。価格の安さやカメラの振動を抑えて動画をきれいに撮影できる技術も評価され、爆発的なヒットとなった。

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中国や欧米のメディアによると、DJIは14年に約40万台を販売し、売り上げは5億ドル近くに上る。販売の約80%が外国市場。DJIは15年の売り上げを10億ドルと見込んでいる。

中国の製造業は安い人件費を強みに、先進国で開発された製品を安価で大量生産することで発展してきた。しかし、DJIは研究開発を重視。従業員約3000人のうち約800人が開発に関わっているとされ、市場を拡大。世界のドローン市場は20年までに毎年19%拡大するとの予測もある。

「産業の発展に有益」

災害現場での状況確認や警備、物流など、ドローンの用途は広がっているが、落下の危険性やプライバシー侵害を懸念する声も強い。

アジアではカンボジアの首都プノンペンの当局が2月にドローンを使った市内での無許可撮影を禁じ、ニュージーランドの民間航空当局も8月から私有地上空を所有者の同意なく飛行させることを禁止。日本でも相次ぐトラブルを受け、法規制が検討されている。

こうした動きに対し、DJIの広報担当者は「(各国の)適切な規制はドローン産業の発展に有益だ」と強調。ルール整備が進むことで逆に合法な活用方法が明確になり、利用する企業や個人が増えるとみている。米連邦航空局(FAA)とも協議しているといい、業界の盟主としてルール作りにも積極的に関わっていく方針だ。(共同)